銅版の芸術性

Art Of Hand Block Prints

多摩美でテキスタイルを勉強していた頃私が最も夢中になり、作品作りに取り入れていたのが、日本の伝統的な型染めでした。 

日本の型染めは、柿渋で硬くした和紙を刀やきりでくり抜いてゆくのですが、難易度の高い細かい図案を考えては、端から丁寧にチミチミとくり抜いてゆく作業が何とも好きで没頭したものです。

そんなわけで、そこから幾年か過ぎ、HITOHAの構想を練っていた時の私の一番の要素は '型染め' 技法でした。日本の型染めに限らず、HITOHAに適した美しい型を作れる職人を見つける事、全てはそこから広がり繋がってゆきました。

職人探しの道順として記憶を更に遡りますが、幼少期の家族旅行で初めてインドネシアの伝統染色 'Batik' と出会いました。Batik工房を訪れ、熱された蝋の強い香りの中を、セクション毎に別れた作業場を歩きながら感じた、何とも不思議な秘密を覗いているような高揚感を強く覚えています。

黙々とフリーハンドで模様を描く職人、リズミカルに、繰り返し熱した蝋に銅版を浸しては布へ押し当てる職人...。目の前にみるみると広がる美しい模様に魅了されました。あれから27年、型職人に出会うため、幼少期にインスピレーションを受けた地へ戻り、HITOHAが始まりました。

Batikは、世界中に知られる技法ですが、私の言葉で如何にそれが素晴らしいか説明させてください。

初めに、Batik(バティック)は、インドネシアの伝統的な、ろうけつ染めです。ろうけつ染めとは、布に模様を染めるのではなく、布に蝋を引いてから染めると、蝋を引いた部分が染まらず模様となる、防染という手法です。

次に、蝋を引くという表現ですが、これには二つ方法があり、一つは手描きで、CANTINGという、ペンの先に小さなジョウロがくっついた様な形状の道具を用います。小鍋の中の溶けた蝋を、このジョウロ部分でサッとすくい、ジョウロの先の細い筒から蝋が流れ出るのを、手早く布へ引いていきます。この時、遅いとどんどん筒の部分から流れて出てしまい、模様が太くなったり、こぼした跡がついたりします。また、ほとんどの工房が、それぞれ自家製の配合の蝋のレシピを持っています。蝋の粘りや固まる速度の塩梅も良いBatik作りに必要不可欠です。

二つ目は、CAPという名の銅版を用いた型染めです。まずこの銅版は、銅版職人により銅の板や棒を用いて手作りされます。太さや厚みの異なる板や棒を曲げ、叩き、細かく切って組み合わせて行くのですが、この時如何にデザインに忠実で精巧な版が出来るかが、この型押しろうけつ染めの鍵になります。また、CAPの全ての辺が、反対側の辺と合致しなければ綺麗なリピートが生まれません。

この銅版へ注がれる技術は非常に高く、版自体が芸術的な美しさを放ちます。平面のデザインが美しい銅版へ生まれ変わると、いつもため息が漏れます。(その後布となり、服となる度にも漏れますが)

CAPが完成すると、その版を用いて布に蝋を押していく職人へ手渡されます。熱した蝋へCAPを浸し、布の角へ初めの模様を一つ置きます。またCAPを蝋へ浸し、最初の模様の辺ときっちり模様を合わせて押します。また蝋に浸して辺に合わせて押す...を手早く、リズミカルに、柄が布全面を覆うまで繰り返します。模様が重なってしまったり、逆にギャップが生まれたり、蝋が固まって版に詰まったりしないよう、経験と技術が求められる工程です。

私が思うに、手押しでろうけつ型染めされた布の魅力は、その手押しされた一つ一つの蝋の微妙な溜まり具合や浸透具合の違い、歪みも含めた不完全の美です。機械でプリントされるパキッとシャープな線とは違う、一枚一枚とても個性が強く、風合いのある布なのです。

HITOHAの型染めシリーズがお手元に届いた際には、実際に使用されたCAPがどの位のサイズで、どんな形をしているのか探してみてください。よ〜く見ると、どこで繋がり、繰り返されているのかが見えて来ます。(ストライプのモチーフは簡単、スマイリーモチーフは不可能ですが)

その後は、模様のどこが蝋が多すぎて(線が太い)、どこが蝋が控えめか(線が薄い、掠れている)、型押し職人の動きを想像しながら探してみてください。

型押しろうけつ染めの布は、まるでフリーハンドで描くイラストや書道の作品様に、一枚一枚の布が全て違う個性を持っています。