理想の植物染め工房と出会うまでの道のりは、なかなかの冒険でした。まるで実際のジャングルで宝探しゲームをする様な...
'サステイナビリティ'ページにも書きましたが、ジャワへ工房探しに来てすぐに、私の選択肢から化学染めが消えました。一方で、今日、如何に植物染めの工房を見つけるのが難しいかも実感します。
Javaのショッピングストリートを歩くと、大抵のBatik('銅版の芸術性’をご参照ください)を扱うブティックには、小さな植物染コーナーがあるのですが、大抵化学染めと比べて価格は約50倍。デザインやカラーバリエーションも限られています。
まさかこれが実情ではあるまいと、半ば希望だけをモチベーションに、幾日も歩き回り(バイクを乗り回して)情報収集に勤しむも、これという収穫が無い日々が過ぎたある夜、インドネシアのアーティストである友人に連れられ、ジョグジャカルタのアートフェスティバルへ。
様々な出展者が立ち並ぶ中で、植物染のBatikを取り扱う小さなショップが目に止まりました。その色味はまろやかで美しく、今まで街中のブティックで見た物達とは違う、魅力的な優しさを放っていました。なぜそんなに心惹かれるのか解せないままショップカードを持ち帰り、その晩門前払いを覚悟で友人に、ショップオーナーへ工房を紹介してほしいとお願いしてもらいます。残念ながら、工房は秘密なので教えられないとの返事をもらいます。とっても残念だけどしょうがない。
数日後、買い忘れた物を手に入れるためフェスティバルを再度訪れ、ついでにもう一度あの不思議な色味を見に例のお店へ。お店の女の子とは特に話もせず帰って来ましたが、その晩友人へ、ショップのオーナーからメッセージが。
’今日も二人(私とインドネシア人の友人)がお店に来てたってスタッフから聞きました。’ そして、’もしも彼女がそんなにも私のBatikに興味があるなら、工房を見せてあげます’。
聞いた時は正に心がぴょこっと躍りました。日本の布マニアが二度も訪れ、あれやこれや友人と布を片手に勝手に協議している様子が、ショップスタッフの女の子の目を引いたのでしょうか。なんてラッキーな。
数日後、場所と時間を指定され、スクーターで着いてみると、そこはただの往来の激しい道路の傍ら。心配が募ります。数分のソワソワ後に、一台の車が停車しました。窓が下がり、運転席に男性、後部座席に二人の女性。
行き先も距離も知らぬまま、とにかく言われるままバイクを道路脇へ置き、友人と二人車へ飛び乗ります。隣の女性の優しい笑顔を眺めつつ、頭の片隅でどうか誘拐されませんようにと願いながら...
あっという間に街から離れ、一時間以上車を走らせ、道はどんどんボコボコし、山道となり、緑が濃くなってゆきます。と、ジャングルの中に現れた、大きな伝統的な木造の建物の前で車が止まりました。
染め工房の女主人が、私の大好きなジャワの飲み物 'Dewet' と共に迎え入れてくれました。(*ココナッツミルクと黒蜜のように濃厚なパームシュガーシロップに、米粉のツルツルしたゼリーが入った飲み物で本当に美味しいんです。)
何はともあれ、こうして巡り合った染工房は、正に私が夢に描いたものでした。何世代にも渡り、ジャングルの植物で染めては、植樹をして樹を補っています。
同じ植物から採っても、季節や年、温度や湿度などによって毎回色の出方が異なります。時々、染色中にスコールに打たれた雨模様付きの布なんかも上がってきます。私はこういった自然が勝手に手を加えた物や、偶然の産物が好きなので、こういう布を見つけると喜びます。一点ずつ個性の強いアイテムは残念ながらあまりオンラインショップ向きではございませんが、展示会等の際に持って参りますので、ご自身に合った自然の気まぐれ模様を探してみてください。
因みに、フェスティバルで私の目を奪った不思議なまろやかな色味の秘密ですが、あれは正にジャングルの出す色味そのものなのでした。街にある植物染めの工房の多くは、染料店から乾燥した葉や粉を仕入れて染めていますが、このジャングルの工房は、自分たちで採集し、乾燥させ、煮出し、全て一貫して行っています。そのフレッシュな工程が、独特の味わいあるまろやかさを生み出すのでしょう。
ジャワのジャングルの奥地に、隠れた秘宝のごとく佇む美しい染工房から生み出される、柔らかくまろやかな色味をどうぞお楽しみくださいませ。